画像生成AIを通じた肖像権侵害に関する、法律上の論点と注意点。

2023.12.06

ワークワンダース 編集部

画像生成AIを通じて生成した画像が実在の人物に酷似している場合、その画像を公開すると肖像権侵害の責任を負う可能性があります。

 

肖像権とは|人格権とパブリシティ権

「肖像権」とは、容貌や氏名などについて判例上認められている権利です。「人格権」と「パブリシティ権」の2つに分類されます。

 

肖像権のうち「人格権」とは、自己の容ぼうなどを無承諾でみだりに撮影されず、または自己の容ぼうなどの写真をみだりに公表されない権利をいいます(最高裁昭和44年12月24日判決、最高裁平成17年11月10日判決)。

「みだりに」という要件に表れているとおり、写真の撮影や公表が一律に人格権侵害となるわけではありません。対象者の人格的尊厳を傷つけるような方法で行われる撮影・公表だけが人格権侵害に当たります。

 

一方「パブリシティ権」とは、氏名や肖像などが持つ顧客誘引力を商業的に利用する権利をいいます(最高裁平成24年2月2日判決)。

典型的には、スポーツ選手や芸能人などの氏名や写真を勝手に使って商品を宣伝する行為などがパブリシティ権侵害に当たります。

 

これら、人格権・パブリシティ権の侵害が成立する要件は、いずれも最高裁判例によって示されています。

 

人格権侵害の要件

容貌の撮影による人格権の侵害は、撮影による人格的利益の侵害が社会通念上受任の限度を超える場合に成立します。

社会通念上受任の限度を超えるかどうかについては、以下の事情を総合的に考慮した上で判断されます(最高裁平成17年11月10日判決)。

・被撮影者の社会的地位
・撮影された被撮影者の活動内容
・撮影の場所
・撮影の目的
・撮影の態様
・撮影の必要性
など

また同最高裁判例では、人は(写真だけでなく)自己の容貌等を描写したイラスト画についても、みだりに公表されない人格的利益を有すると判示しました。

イラスト画の公表による人格権侵害の成否は、最高裁は写真の撮影と同じく、本人において社会通念上受任の限度を超えるかどうかによって判断を行いました。

 

ただし最高裁は、イラスト画の描写には作者の主観と技術が反映し、公表された場合もそれを前提とした受け取り方をされるという、写真とは異なる特質を参酌すべきと指摘しています。

 

パブリシティ権侵害の要件

パブリシティ権侵害は、専ら肖像等の有する雇用吸引力の利用を目的として、その肖像等を本人に無断で使用した場合に成立します(最高裁平成24年2月2日判決)。

 

専ら肖像等の有する雇用吸引力の利用を目的とする場合について、最高裁は以下の3つを例示しました。

基本的には、無断での商業的利用はパブリシティ権侵害に当たると理解すべきでしょう。

・肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用している
・商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品に付している
・肖像等を商品の広告として使用している

 

画像生成AIの利用による肖像権侵害のリスク

画像生成AIが出力した画像が実在の人物に酷似している場合、その画像を不正な方法で公表すると、肖像権侵害による損害賠償責任を負うリスクがあります。

画像生成AIが出力した画像の公表によって人格権侵害が成立するためには、大前提として、その画像が誰をベースに生成されたかが特定できなければなりません。

その一方で、イラスト画の公表によっても人格権侵害が成立する余地があること(前述)を考慮すると、本人の容貌と完全に同一であることは必須でないと思われます。生成画像が特定の人物と強く結びついていれば足りると考えるべきでしょう。

 

画像生成AIは一般に、複数(多数)の画像を学習したデータセットを基にして、ユーザーが入力する指示に従って新たな画像を出力します。

データセットに含まれる人物肖像が多ければ多いほど、たくさんの人の容貌がミックスされるため、特定の人物と強く結びついた画像が生成されるケースは少なくなります。

しかし、データセットに含まれる人物肖像が少数の場合は、特定の人物がそのまま出力されてしまう可能性が高いでしょう。

 

また、学習・出力のアルゴリズムとの関係上、元データと類似した画像生成が行われる確率がどの程度あるかも考慮要素の一つとなるでしょう。

生成画像が特定の人物と強く結びついているとしても、その公表が直ちに人格権を侵害するとは限りません。有名人を連想させる画像をリスペクトのある形で公表する分には、人格権侵害が成立する可能性は低いです。

一方、有名ではない特定の一般人と強く結びついている画像の公表や、悪意を感じさせる方法による公表については、人格権侵害が成立する可能性が高いと考えられます。

 

一方で、パブリシティ権侵害についても、少なくとも生成画像が特定の人物と強く結びついている場合に限って成立します。

生成画像と特定の人物の結びつきについては、データセットの大きさや学習・出力のアルゴリズムなどを考慮して判断されることになるでしょう。

生成画像と強く結びついている特定の人物に知名度があり、集客など商業的な利用目的によって画像や当該人物の氏名などを公表した場合には、パブリシティ権侵害が成立します。

画像生成AIの利用による肖像権侵害を防ぐための注意点

画像生成AIを利用して生成した画像の公表により、他人の肖像権を侵害しないようにするためには、以下の各点に十分ご留意ください。

 

(1)学習・出力の仕組みを確認する

画像生成AIの学習・出力のアルゴリズムについて説明がある場合は、その内容を確認しましょう。特定の人物がそのまま出力される可能性が高い場合は、生成画像の公表は控えた方が無難です。

(2)似ている有名人がいないか、複数人で確認する
生成画像が特定の有名人に酷似していないかを確認しましょう。複数人でチェックすれば、確認漏れのリスクを抑えられます。

(3)「○○似」などと称して公表しない
有名人に酷似した生成画像を「○○似」などと称して公表することは、人格権やパブリシティ権の侵害に当たるリスクが高いのでやめましょう。

(4)悪意のある公表の仕方をしない
生成画像やそれと強く結びついた人物を揶揄する紹介文を付したり、その人物のイメージにそぐわないコンテンツと併せて公表したりすることは、人格権の侵害に当たる可能性があります。

 

Photo:Tingey Injury Law Firm

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